◆牛頭からスサノオの古代史、小林よしのりの「わしズムV.5」

スサノヲ(スサノオ)

2006年08月02日 12:00




◆牛頭からスサノオの古代史、小林よしのりの「わしズムV.5」

◆◇◆わしズムVol.5(幻冬舎)「牛頭(ソシモリ)からスサノオの古代史」

 書店である雑誌(ムック)に目が止まった。雑誌(ムック)のタイトルは「わしズム WASCISM Vol.5」(漫画と思想、日本を束ねる知的娯楽本、幻冬舎)。あの「ゴーマニズム宣言」で知られる小林よしのり氏の責任編集による雑誌(ムック)だ。


 表紙の特集内容を見てさらに興味をそそられた。まさかとは思ったのですが、なんと、ゴーマニズム宣言EXTRA「牛頭(ソシモリ)からスサノオの古代史」とあった。早速買い求めて読むことにした。

 はたしてどんな内容なのか、それ以上に「ゴーマニズム宣言」で、社会問題(差別、宗教、国家、個と公、戦争・・・)を批判を恐れず自身の考えを漫画を通して問題提起してきた小林よしのり氏が、何故日本神話を取り扱おうとしたのか、その中でも何故スサノオを取り上げたのかが気になっのである。当然、スサノオをどのように説明しているかも気になったが・・・。

 始まりは、『古事記』に描かれたスサノオ神話のが紹介からである(「海原を治めよ」との命に泣き喚くスサノオ→アマテラスと誓約=ウケヒするスサノオ)。

 誓約(ウケヒ)で生まれた宗像三女神(田心姫、湍津姫、市杵嶋姫)を祀る辺津宮(宗像大社)や中津宮(大島)を小林よしのり氏が訪ねる旅へと展開(こうしたスサノオへの関心は、小林よしのり氏の生まれ故郷に牛頸=牛首=うしくびがあったこと、神話と古代史に関する疑問から始まる。小林よしのり氏にとってのルーツとアイデンティティへの確認作業である)。

 さらに小林よしのり氏は、日本人とは何か(渡来人とは?、海人とは?、帰化人とは?)、どのようにして日本人は日本人になっていったのかへと疑問と思索が進む。

 関心は朝鮮半島と日本列島を自由に航海し交易をしていた海人、その海人を統率した宗像大社を祀る豪族・宗像君の祖先「胸肩君」と、古代の海路「道中(海北道中)」への関心へ向かう。

 古代の海路「道中(海北道中)」のはるか太古に、小林よしのり氏は日本の創世の風景を思い浮かべるのである(タミル人の渡来と日本語の基礎=ヤマトコトバの成立、稲作・金属器・機織などの文明の伝来など)。

 再度小林よしのり氏は、日本と日本人とは何かを探るため、牛頭とスサノオへの疑問へ戻る。

 牛頭と朝鮮半島のソシモリ(新羅国の曽尸茂梨)、牛頭天王と祇園社の祭神、牛頭天王とスサノオ(須佐之男命・素盞鳴尊)、ソシモリと巨木信仰(御柱祭り)、『日本書紀』のスサノオの記述の真偽?、スサノオと紀氏(紀の国)と海人、スサノオの民間信仰と伝承、などへと時を越えて思索は深まる。

 一つの地名にしても、一つの神名にしても、そこには数百年~二千年以上の様々な経過を辿った歴史と繋がり今日にあるわけだ。

 また、話は高天原で乱暴狼藉をはたらくスサノオに戻り、さらにスサノオの源流を求める。根の国と海上他界、スサノオは紀伊の海人の信奉する神(海上他界のマレビト神)、水沼氏の奉祭する神など。

 旅は中津宮(大島)へ、思いは沖ノ島の古代祭祀へと、脳裏に古代の歴史が甦える。小林よしのり氏は、大島の中津宮の杜(もり)で、スサノオの源流を追う思索の旅の中で、遥か昔の日本と日本人(風土と精神)に思いを巡らす。「日本と日本人はどのようにして、日本と日本人となったのか」と・・・。

 このスサノオという神は、渡来の韓鍛冶部の神、出雲の須佐郷の地方神、荒れすさぶる神の神格、アマテラスの対立概念としての神などいろいろな解釈があるが、『記・紀』神話のスサノオの神格が誕生してくるまでにはもっと様々な変遷と経緯を通して出来上がってきたのだ。

 それは、日本と日本人が形成される歴史とも深く関わる長い時間なのである。

 是非、一読をお勧めする。


スサノヲ(スサノオ)


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